夕暮れの空の下に置かれた、樽の形をした屋外サウナ。中にランプが灯っている

握りしめていたもの

沖縄でリトリート。コミュニティには所属しないタイプで、こういう集まりには行かない。年に数回、馴染みの人に声をかけられて、友人が古宇利島で経営する宿泊施設に集まるときだけだ。

大きな志を持って、本気でやっている経営者ばかり。会話が全部学びになる。特に今は、アーリーアダプターたちがそれぞれの会社でAIをどう使っているか、実例が聞ける場が貴重だ。

こういう実際に活用されている「本当に良い情報」は、インターネットや本には落ちていない。実業に活かしていて、その「方法」を他人に教えてマネタイズする必要がない人たちの情報だからだ。

地元の市場で新鮮な食材を買って、料理して、プレミアムワインで乾杯。3日間、沖縄の海の魚とアグー豚、現地の新鮮な食材を食べ、夜は満天の星が見えるサウナに自由に入り、出張マッサージも受けた。

いろんな業界の一流の人たちと話していると、ふと思い出すことがある。経営者の集まる場は苦手だった。実績や肩書、会社の年商、影響力。ずっと気にして生きてきた。ずいぶん長い間、条件や状況で無意識に人を評価していたと思う。だから逆に、自分も評価されているんじゃないかと不安になることもあった。

今思うと、そういう時期も必要だった。先を行く人を意識して必死になっていた時期もある。苦しかったが、そこで最後までやり切った経験を重ねたことが自信になった。自信があれば、自分を大きく見せる必要がないから、素で接することができる。ある程度歳を重ねてやり切ってきた「お互い」が素でいられる人たちだから、居心地がいい。

どうやったら鎧を着せずに、無防備に人と話せるのか。圧倒的にやり切って自信を持つこととは別に、やり方がもう一つある。「相手の心の中の自分と話をする」というものだ。こう言うと難しく聞こえるかもしれないが、この表現が一番しっくりくる。

相手の中に、自分を見つける。自分と同じ、共感できる部分を見つけたら、そこに話しかけて、そこから広げていく。そうやって相手の中に自分を見ていると、結果として、自分が実績を握りしめていることに気づける。

友人の宿泊施設の裏に、海辺でドッグランをやっている方がいる。大阪出身で、都会の生活をやめて家族で移住してきた。移住した頃と今では、古宇利島の土地の値段は10倍違うそうだ。何度も会っているので挨拶に行くと、火事で建物が燃えてしまったという。家族もペットも無事でよかった。それでも、また資金を集めてやると、前を向いていた。

建物のように目に見えるものも、年収や肩書や実績のように数字でしか見えないものも、生まれた場所や肌の色のように変えられないものも、一夜で意味を失うことがある。AIの進化で、いま起きているのもそれだ。優秀さの測り方そのものが、変わってしまった。

握りしめているものを、一度全部疑ってみる。

過去という生ゴミは捨てないと、新しいものが入ってこない。

忙しない日常では、自分の中を見て考えることがあまりない。遠く離れて、仕事もしない環境で感性を広げる時間は、思っていたより大事だ。

音楽と情景を紐付けて記憶に残すため、その場所で聴いていた曲でプレイリストを作ることを習慣にしている。この日、聴いていた曲の中から一曲。

情熱の薔薇

THE BLUE HEARTS

年齢、性別、学歴、宗教、肌の色、会社名、肩書、年収、年商、フォロワー数。全部、生ゴミだ。

この曲は、見てきたものも聞いてきたことも、覚えたこと全部がでたらめだったら面白い、と歌う。その通りだと思う。握りしめている生ゴミのようなものを、一度全部疑って手放す。そうしないと、新しいものを掴めない。

常にプレイリストに入っている大好きな曲。