新幹線の車窓から見える富士山。山頂に雪、裾野が左右に長く広がる

富士山の裾野

白濱良太

大阪と東京を行き来する新幹線から、富士山が見える。

日本で一番高い山だが、注目すべきは「裾野」の広さだと思っている。3,776メートルを支えるために、直径およそ40キロメートルの土台がある。

効率的に、最短距離で、再現性高く、苦労をせず。こういう言葉には惹かれそうになるが、それではだめだ。やっぱり根を張らないといけない。もっと泥臭く、基礎を反復して踏み固めないと。

根を張るといっても、場所に縛られるという意味ではない。人との関係の中で根を張る。お金や見栄、権力ばかり握りしめて転落していった人も見てきた。嘘をつかず、コソコソせず、約束を守る。義を通す。

プラトンは「人間は逆立ちした植物である」と言ったとされる。弟子のアリストテレスは「植物は逆立ちした人間である」と言った。同じことを言っているようだが、自分にはプラトンのほうがしっくりくる。人間は自然界のただの一部だ。人間を先に置いて自然を説明するアリストテレスの言い方には、違和感がある。当時の世界観では、人間を特別な位置に置くのが自然だったのだろう。

植物は地面に根を張る。人間は逆さまに根を張る。人脈や信頼といった、目に見えないものに向かって。

昔は売上やフォロワー数、集客数ばかりに目がいっていた。高さを求める前に、根を張って、人としての「裾野」を広げたい。

とはいえ、ときどきぶれそうになる。出張のたびに富士山を見ると、大事なことを思い出せる。

音楽と情景を紐付けて記憶に残すため、その場所で聴いていた曲でプレイリストを作ることを習慣にしている。この日、聴いていた曲の中から一曲。

Discreet Music

Brian Eno

この曲は30分ほど、同じ旋律がゆっくり循環するだけで、盛り上がりも展開もないが、富士の40キロメートル、ただ静かに広がっている裾野を感じる時に聴きたくなった曲。