泥水の残る会場に立っている。足元から青いホースがポンプへ伸びている

やらない選択肢はない

2022年9月、大阪・夢洲。万博の会場予定地を民間で貸し切り、45,000発の花火を上げる。「レッツゴー万博2025 夢洲超花火」と名づけたイベントが、3年前に言い出してから、ようやく1週間後に迫っていた。

警察、消防、地元の町内会、企業、地下鉄、市バス、高速道路。会場は3つの区にまたがり、人が溢れそうな場所ごとに管理者がいる。トラックターミナル、漁業組合。花火やドローンの中身とは別のところで、数えきれない相手と調整を重ね、それがようやく済んだ。いよいよ、という時だった。

台風が2つ、同時に発生した。14号と15号。

14号は大型で動きが遅く、史上最高クラスの勢力で上陸するとニュースが繰り返す。家が倒壊するほどの風と、記録的な雨。大阪にもよく降った。

1週間前から始めるはずの会場設営は止まり、ドローンショーのリハーサルも飛ばせない。夢洲は埋立地で、水はけがひどく悪い。会場のあちこちに大きな水たまりができ、3日前には、来場者の車が入れる状態ではなくなっていた。

あの日の会場を見たとき、絶望に近い感覚があった。

イベント保険の都合で、中止を判断する期日が迫る。副実行委員長であり共同主催として一緒に走ってくれていた先輩と、深夜に電話をした。言葉は多くなかった。やらない選択肢はない。それで決まった。

そこから三日三晩、夢洲にいた。ポンプで水を抜き、使えなくなったエリアの代わりに新しいエリアを増設する。ぬかるみにトラックを入れればタイヤが沈み、男10人がかりで4時間かけてようやく抜ける。芝刈り機にまたがって草を刈り、その合間に当日の楽曲を最後まで詰めた。

一緒に泥だらけになった人たちがいる。一番は、副実行委員長として一緒にイベントをつくってくれた先輩。実行委員会のメンバー、それだけではない。直前まで手を動かし、官僚の方まで新しいエリアの準備に加わってくれた。誰かに頼まれたわけでもないのに、みんな会場に来た。

人は、追い込まれると意外なものに頼る。結界の張り方を教えてくれる人がいて、自分は雨の中、会場のど真ん中で言われたとおりに祈っていた。藁にもすがる思いで、できることは全部やると決めていた。

前日も風は強く、ドローンのリハーサルは最後まで通せなかった。それでも、どこかで当日は晴れると信じていた。関西中からこれだけ熱のある人たちが集まり、開催を望んでいる。台風くらい吹き飛ぶだろうと。

直撃するはずだった15号が、直前でぐいっと向きを変え、関西を避けて東へ流れていく。ニュースの地図が、そう変わっていた。

根拠はないけど、やっぱり強く想うことは強い。

夜、泥にたまった水をスコップでかき出している
夜空にドローンが「LET'S GO 万博2025」の文字をつくっている